パーク ハイアット パリ-ヴァンドーム総支配人 ミシェル ジョスラン氏 インタビュー

Atout France Interview Michel Jauslin
Interview

2014年11月、パーク ハイアット東京開業20周年を記念し、パーク ハイアット パリ-ヴァンドーム総支配人でエリアヴァイスプレジデントのミシェル ジョスラン氏が来日した。同ホテルは2011年、フランスで初めて「パラス」称号を得たホテルの一つ。「パラス」認可の背景や、日本市場への取り組みについて聞いた。

Q. 今回はパーク ハイアット 東京の開業20周年記念で来日されましたが、パリと東京のパーク ハイアットには特別な繋がりがあるのでしょうか。

A.私が2002年にパーク ハイアット パリ-ヴァンドームを開業させた時、じつは東京のパーク ハイアットを土台にホテル作りをしているのです。パーク ハイアット 東京は開業当初より人々の関心を惹き、「ビジネスウィーク」や「フィガロ」紙など多くのメディアが紹介しているのを、グランド ハイアット ソウルの総支配人だった時代から注目していましたから。

パーク ハイアット・パリの開業時には日本人ゲストのこともずいぶん意識しました。ゲストは自らが慣れ親しみ比較できる対象のある場所へ行きたがるものです。日本には既に東京のパーク ハイアットやハイアット・グループのホテルに親しむゲストがおられるのだから、パリにも彼らの家(ホテル)を作ろうと思ったのです。パーク ハイアット パリの開業スタッフには日本通のフランス人ホテルマン、エティエンヌ ダランソンがいたり、現パーク ハイアット 東京総支配人のフィリップ ルデサーの助言を得るなどスタッフにも恵まれました。

Q. 日本人ゲストの好みを研究されたのですね。

A.はい。開業の頃は和風の朝食を出そうという案もありましたが、日本人ゲストを観察してみると、彼らはクロワッサンとコーヒーというフランスらしい朝食を選ばれる方が圧倒的に多いことが解りました。団体旅行ブームを過ぎ成熟市場にある日本のゲストは洗練された趣味を持ち、本場の食文化に触れたいと思われる方が多いですね。

Q. あなたはフランスの新ホテル格付制度の中にできた「パラス」という最高位の称号を、2011年に初めて、パーク ハイアット パリ-ヴァンドームにもたらしました。この時、パーク ハイアットと共に「パラス」第1号となったのは、ブリストル、ムーリス、プラザアテネという、いわゆるパラスが制度化される前から世間が老舗デラックスホテルとして認識する「伝統的パラス」ばかりでした。そこに2002年開業のパーク ハイアット パリ-ヴァンドームの名が並んだことに皆が驚いたはずです。「パラス」称号取得に至った背景を教えて下さい。

A.もともと私は、フランスに5ツ星を頂点とする新たなホテル格付けを導入することに賛成でした(2008年までフランスのホテル最高ランクは4ツ星デラックス)。世界の競合と比較して、「5ツ星」と言ったら世界のどこでも同じ5ツ星でなければなりません。新しい格付制度ができ5ツ星ホテルが誕生してみると、今度は老舗のパラスの中から、5ツ星ホテルが多くなりすぎ差別化が図れないという意見が出始め、5ツ星の中でも特別なホテルに「パラス」称号を与えることになりました。

パーク ハイアット パリ-ヴァンドームの開業から現在までの変化を示すひとつの指標に客室数が挙げられます。開業当初は180室のホテルでしたが今は154室です。この変化の裏に我々の決断が読み取れるはずです。開業後、競合ホテルを見て、ラグジュアリー市場に参入するには、当ホテルにはスイートルームの客室が相当不足していることが解りました。そこで、主に小さい客室を30以上削りながらスイートルームを増やし、市場でより優位に立てる新しいホテル格付プログラムに見合うようにしたのです。

スイートルームの新設と同じ頃、それはパラス格付が正式に導入される前からですが、当ホテルはさらなる高みを目指せると確信し再投資を行っていました。スパをリニューアルし、レストランも改装してグリルルームを作りそれをガストロノミックなレストランに仕立てました。そんな中「パラス」称号が正式に導入されることを聞き、申請に至ったのは自然な流れでした。

ただそれは我々にとって大きなチャレンジになりました。当時の友人にパラス称号を目指している話をすると、誰もが「150年の歴史がないホテルがパレスになれる訳ない」という反応を示しました。しかし我々は開業時から「現代版パラスホテル」のポジショニングを意識していたので、正式に「現代版パラス第1号」を目指すのは当然だと思えたのです。周囲の反対意見には、メディアを通じ長い時間をかけて説明をしていきました。これから我々が作るべきホテルはマリー・アントワネットやナポレオン時代のバロックスタイルのホテルではないのだとね。

もはや荘厳なパラスを作る時代ではないという考えが一般的になった今、どのホテルでもリノベーションのスピードが上がりました。今のホテルは、「コンテンポラリー」であることが、もはや“ライトモチーフ”、つまり時々繰り返される命題のようになっています。例を挙げれば、パリに進出したマンダリンオリエンタルの内装、改装を終えたプラザアテネは、みなコンテンポラリーに仕上がっています。ペニンシュラはもともとそういうスタイルですし、シャングリラは伝統を重んじながらもやはりリノベーションしています。そんな風潮を作ったのが「現代版パラス(palace contemporain)」の先駆けであるパーク ハイアット パリ-ヴァンドームであると自負しています。ロワイヤル・モンソーを忘れていましたが、ここだってフィリップ・スタルクを起用して前衛的な内装になりましたね。

Q. 「現代版パラス第1号」というのは面白いですね。現在、新しいデラックスホテルが限られた「パラス」の仲間入りを果たしたいなら、コンテンポラリー路線で行かないと難しいということでしょうか。

A.それは今もよく議論の対象になります。我がホテルは幸いにも建物に歴史がありました。オスマン時代(19世紀)から残る建造物で、高級アパレルブランド、パキャンのメゾンが入るオートクチュールの殿堂だったのです。一方でシャングリラはローラン・ボナパルトの邸宅でした。しかしだからといって、そんな歴史がないマンダリンがパラス称号を得られないという訳ではありません。もともと「パラス」は宮殿を意味しますが、その言葉は今も進化を続けています。

Q. 「パラス」称号を得る前と後でホテルに変化はありましたか。例えば外国のお客様が増えたとか。

A.確かにそれはあります。とくにパーク ハイアット パリ-ヴァンドームは初のパラス称号を得た6軒のひとつとして大きくメディアに取り上げられました。世間ではブリストル、ジョルジュ・サンク、プラザアテネがパラス称号を得るのは当たり前だと思っていても、まさかパーク ハイアットがとは思っていませんでしたから。「現代的パラス」誕生という形で我々は大きなメディア露出を獲得し、それにより多くの顧客を得られたのは事実です。

しかしそれ以上に「パラス」称号が我々にもたらしたのは、従業員の意識の変化でした。彼らはパラスで働くことに誇りを感じるようになり、これまでとは明らかに違うモチベーションで仕事に取り組むようになりました。また、投資家の皆様にも良い結果をもたらすことができたと思います。

Q. 今、日本では「おもてなし」という言葉がちょっとした話題になっていますが、パーク ハイアットならではのおもてなしの形はありますか。

A.我々パーク ハイアット・ブランドがユニークセリング・ポイントとして謳っているのは「邸宅(レジデンス)でのくつろぎ」です。開業当時から我がホテルは、スタッフが高級レジデンスの中でお客様に接するというスタンスを心掛けています。

普通のホテルでの振る舞いとレジデンスでの振る舞い、この微妙な線引きをお客様はしっかりと受け止めてくださいます。お客様が「お宅にくると、なんだかホテルに来たというより家の中にいるような感じがする」と仰ってくださるのは、我々にとって最大の賛辞なのです。

スタッフはレジデンスの一部ですから、給仕係がただ突っ立ってお客様が落し物をするのを待ちそれを拾い上げるようなサービスではいけないのです。彼らこそ本物のホスピタリティの一部でなくてはなりません。本物のホスピタリティとはただ料金を答えたり、機械的な態度から繰り出されるものでなく、心から自然ににじみ出てくるものでなければなりません。

従業員のホスピタリティこそ、パーク ハイアット独自の強みであると言えます。設備への投資は誰でもできますが、人づくりは一朝一夕にはできません。私たちのホテル業は「ピープル・ビジネス、人ありきのビジネス」なのです。

Q. パリのパーク ハイアットのスタッフに日本人スタッフはいらっしゃるのですか。

A.はい。その点でも当ホテルはさきがけでありました。もともと多文化気質のあるホテルですから日本人スタッフは多いです。レセプション、厨房でも日本人スタッフが活躍していますよ。

Q. フランスのダイニングシーンでは、「ビストロノミー」の流行があったり、トップシェフがファストフードに進出したり、食のカジュアル化が進んでいます。あなたのホテルではそのブームをどのように受け止められますか。

A.パラスである以上、経営側は必然的にホテル内のレストランがガストロノミックなレベルであろうと努力します。ただそれはミシュランの星を取るべきだと言っているのではありません。ミシュランだけが評価の基準ではありませんから。その一方で、パラスの格を得たホテルには、そこに入るレストランも、パラスが目指す高みに見合うものであることが求められます。最高のレベルに達するにはどうしたら良いかという問いに対し、パーク ハイアットではそれをシェフの個性を活かすという選択で答えを示しています。例えば、カーヴの中に設えたグリルルーム(レストラン「ル・ピュール」)がそうです。そこではシェフ、ジャン-フランソワ ルーケットの創意に富む料理を存分に味わえます。彼が重視するのは現代性やエスニックモダンではなく、本格的な味覚を追求することです。土地の味覚を最大限に活かす料理は、レジデンスを目指すホテルのコンセプトと合致するものでもあります。

Q. シェフは面白い試みにも挑戦されていますね。たとえば黒塗りのお弁当箱(ベントー・ボックス)に配したおつまみとグラスシャンパンの取り合わせを出したり…。

A.シェフは旅から最大限にインスピレーションを得ています。自分が旅先で出会った味覚を皿の上に昇華し、「旅日誌」というコレクションで展開します。旅心を大事にするハイアットのスピリットにもぴったりです。

Q. パーク ハイアット パリ-ヴァンドームの最新情報があったら教えて下さい。

A.まず、ホテル内のスパが自然派高級スキンケアブランドの「クレーム・ド・ラ・メール」と独占提携を結んだことです。 また、シェフ・パティシエのファビアン ベルトーがゴー・エ・ミヨー2015年版で「パティシエ・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたことも大きなニュースですね。

Q. フランスにあるハイアット グループのニュースは?

A.フランスでは次の4つのホテルが2014年の年末から2年半の間、「進化」のための修復工事に入ります。

-オテル・デュ・ルーヴル

-ハイアット・リージェンシー・パリ・エトワール(旧コンコルド・ラファイエット)

-グランド・ハイアット・カンヌ(旧マルチネス)

-ハイアット・リージェンシー・ニース・パレ・ド・ラ・メディテラネ

大規模な修復になるカンヌのホテルを除いてはクローズせずに工事を行います。ハイエンドなレベルにとどまるためには常に「進化」が必要だからです。パリのパーク ハイアット・ヴァンドームでも、5年の期限付きで与えられる「パラス」称号の再申請を控え、進化のスピードを上げます。

Q. 最後にひとこと、日本人ゲストへのメッセージをお願いします。

A.パーク ハイアット パリ-ヴァンドームに宿泊される日本人ゲストは外国人ゲストの中でも3番目に多数を占めるお客様です。日本のお客様は洗練された好みをお持ちで、旅先には「本物のパリ」を求めていらっしゃいます。そんな方々の好みにあった雰囲気作りを大切にしていますので、東京と同じくパリにも馴染みの家があると思ってお寛ぎください。

聞き手:フランス観光開発機構 広報部


パーク ハイアット パリ-ヴァンドーム
Park Hyatt Paris-Vendôme

5 Rue de la Paix Paris 75002
Tel +33 1 5871 1234
Fax +33 1 5871 1235

Email: paris.vendome@hyatt.com