どの君主よりパリを愛したナポレオン一世

フォンテーヌブロー城
ルーヴル美術館

ナポレオン・ボナパルトは、もとはといえばイタリア系のコルシカ貴族の出身です。ところが、どのフランス君主より、パリとその住民を愛していました。フランス革命期に頭角をあらわし、1802年、彼は統領政府の終身統領として絶対的な権力を握りました。その時、「パリをより美しくするためには、建てるものより、壊さなければならないものが多い」と言い切ったといわれます。つまり、彼に言わせれば、パリが「ヨーロッパの首都」であるためには、過去も、現在も、そして未来永劫に美しい都市であり続けるようにしなければならないというわけです。  このため、マーケット、食肉処理場、中央市場、公共の水くみ場などの施設を整備し、家屋に番号を付け、街路にガス灯を設置させます。ナポレオンは古典的な伝統を重んじていましたが、同時に啓蒙主義の新しい息吹も身にまとっていたのです。  新しく建てられた建築物、たとえば、凱旋門、カルーゼルの凱旋門、ヴァンドーム広場の円柱はナポレオンの栄光を誇示するものですが、一方、既存の建物には、新しい時代に合わせて市民や宗教施設として用途を変更されたものがあります。ブルボン宮殿は立法議会に、リュクサンブール宮殿は上院となり、パンテオンは教会に戻りました。

凱旋門

 古代ローマにあこがれていたナポレオンは、1806年、パリ市内に凱旋門を二つ造るよう命じました。エトワール広場の凱旋門とカルーゼルの凱旋門です。カルーゼルの凱旋門は、テュイルリー宮殿の正面の門でしたが、宮殿そのものは後に焼失してしまい残っていません。 一方、エトワールの凱旋門は古代の凱旋門と同じく、ナポレオンの軍事天才を称え、その戦勝を祝うためのモニュメントでした。しかし、彼自身は、1836年の凱旋門の完成を見ることができませんでした。すでに1821年、流刑の地セントヘレナ島で死去していたのです。  凱旋門は、現在でも国家の重要な行事の場となっています。
http://www.paris-arc-de-triomphe.fr

パンテオン

 王政期に建築が始まった聖ジュヌヴィエーヴ教会は、フランス革命期に、フランスの偉人を祀る霊廟「パンテオン」と変更されました。しかし、ナポレオンは再び教会に戻し「首都で最も美しい寺院になるよう」改修を命じました。さらに1885年には、再びフランスの偉人を祀る「パンテオン」に戻り現在に至っています。ギリシャ建築に習った均整の取れたその姿は、初期新古典主義によるフランス建築の傑作とされています。キュリー夫妻、ヴィクトル・ユーゴー、ルソー、ヴォルテール。ゾラなどが埋葬されています。  2017年5月からは新しい解説システムが導入され、建物、装飾、埋葬されている偉人について、今まで以上に理解しやすくなります。
http://www.paris-pantheon.fr/

ルーヴル美術館

 1798年,革命期の議会が王室所有の美術品を収納していたルーヴル美術館を一般公開としました。そして、このルーヴル美術館の工事を完成させたのはナポレオンでした。セーヌ川の反対側、リヴォリ通りに沿う側廊は彼が建てさせたものです。このため、1803年には、「ナポレオン美術館」と改名されるという出来事もありました。
http://www.louvre.fr

帝政期の建築

 1804年、ナポレオンは皇帝に即位します(第一帝政)。この時代に始まった建築や装飾の様式が帝政様式(アンピール様式)と呼ばれます。古代ギリシャやローマの建築や装飾からインスピレーションを得ているため、それまでの曲線を多用したロココ様式にくらべ、直線的でシンプル、落ち着いた均衡のとれたスタイルです。帝政様式は、ナポレオンが妻ジョセフィーヌと住んだマルメゾン城の改修と装飾を手掛けた建築家ペルシェとフォンテーヌのデザインから広まったといわれます。帝政様式は現代にも受け継がれ、各国の公共建築にも影響を与えています。  帝政様式の代表的建築には以下のようなものがあり、いずれも見どころ満載です。

美術館で見られる帝政様式の数々

マルモッタン・モネ美術館
 印象派の画家クロード・モネのコレクションで知られていますが、帝政様式の家具、絵画、磁器の豊富なコレクションも見逃せません。
http://www.marmottan.fr/

パリ装飾芸術美術館
 世界最大級の装飾芸術のコレクションを誇りますが、第一帝政期の最高級の家具が数多く展示されています。豪華な金細工、大きなブロンズなどがナポレオンの宮廷の栄華と古代へのあこがれを今に伝えています。
http://www.lesartsdecoratifs.fr

軍事美術館
 アンヴァリッドにある軍事美術館には、ナポレオンが身に着けたコートや、あの二角帽、レジオンドヌール頸飾、サーベル、画家アングルの描いた肖像画などが展示されています。
http://www.musee-armee.fr